津田 紫乃(つだ しの)/ 西予市移住コーディネーター(西予市地域おこし協力隊)作曲家として活動しながら、西予市地域おこし協力隊の移住コーディネーターとしても働く津田紫乃さん。北海道での移住経験、東京での暮らし、そして西予市で出会った人たちとの関わり。その一つひとつが、いまの津田さんの「人と地域のつなぎ方」につながっています。そんな津田さんを取材しました。取材・執筆 / 田中 弘樹(西予市移住コーディネーター)「この人たちと働けたら安心」。で、協力隊になる。——なぜ、地域おこし協力隊の移住コーディネーターになったのですか。(津田)最初から協力隊として来るつもりだったわけではなくって。東京で暮らしていたとき、最初は普通に移住先を考える中で、東京から西予に何度か来るうちに「せいよクラス」のみなさんと会うようになったんです。 仕事の内容で選んだというより、「この人たちがいる環境に身を置きたい」と思ったことが大きかったです。西予市の協力隊の仕事は、業務感が強いわけではなく、柔軟に動いてくれる感じがしました。ここなら、その人に寄り添って考えられる仕事ができるのではないかと思いました。 今、移住コーディネーターをしながら、音楽や映画に関わる仕事をしています。自分の好きなことをやりながら地域にも関われるところは、西予市の協力隊らしさの一つだと感じています。 ——移住相談はどんな内容が多いですか。その人その人で違うんですけど、愛媛のイメージなのか、柑橘や農業に関心がある方、農のある暮らしを求めている方は多いです。あとは、都会で少し疲れてしまって、もう少しトーンダウンした暮らしがしたいという相談もあります。 ただ、話を聞いていくと、本当に必要なのは「どこに住むか」だけではないことも多いです。その人がどんな暮らし方をしたいのか、どんな地域の空気感が合うのかを一緒に考えるようにしています。 地域も移住者も、「無理のない形を心がけたい」。 ——移住相談の時に大切にしているものは何ですか。都会で抱えている問題が、田舎に来たら全部解消するとは限らないと思っています。田舎が楽そうだから、という気持ちだけで来てしまうと、本人にとっても地域にとっても、理想とのギャップが大きくなることがあります。 移住相談は、都会から来る人のご用聞きになることではないと思っています。地域に受け入れてもらうということは、その後も一緒に付き合っていく関係性が生まれるということ。だから、移住する人のためだけでも、地域のためだけでもなく、双方にとって無理のない形になるかを大切にしています。 ——双方にとって無理のない形を大切にする理由は何ですか? 外から来る人をどんどん歓迎する雰囲気の地域もあれば、少しずつ関係をつくっていく方が合う地域もあります。移住希望者が普段どんなトーンで暮らしたいのかを聞きながら、地域のキーパーソンや協力隊の人にも話を聞いて、感覚をすり合わせていくことを心がけています。 実は私自身も以前、移住した先で、一人の人間として接してもらえる前に「移住者」というレッテルで見られるしんどさを感じたことがありました。だからこそ、仲介する人の関わり方で、移住する人と地域の出会い方は変えられるのではないかと思っています。移住相談を受ける津田さん 働く人の「地域のため」の本気に惹かれ、西予を選ぶ。——東京で暮らすなかで、地方移住を考えるようになったのですか。東京で暮らす前は北海道で暮らしていました。その後、当時交際していた現在の夫と暮らすために東京へ移りました。当時から、いずれ地方へ行くことも頭にありながら移りました。ただ、思っていた以上に満員電車や、人の多さが体にこたえて、少しずつ次に暮らす場所を考えるようになりました。 その頃、愛媛県松山市には仕事や旅行で行く機会があり、二人が知っている場所なら安心だし、松山もありだよねという話はしていました。——その後、どうやって西予市を知ったのですか。たまたま住んでいた最寄りの商店街に西予市のブースが出展していて、そこでみかんジュースの飲み比べをしていました。愛媛の話をしている中で西予市のことを聞かれたのですが、その時は名前も知らないくらいで。そこで、元々「せいよクラス」にいた自治体職員の方に声をかけてもらったのがきっかけです。——そこで初めて西予市を知ったのですね!はい。その時に「お試し体験ツアーみたいなものがあるから、来てみる?」という話があって、二人で西予に行ってみることにしました。実際に行ってみたら、すごく良かったんです。——西予で出会った人たちの、どんな姿に心を動かされたのでしょうか。ツアーで訪れた先の方たちと話していて、仕事への向き合い方が、これまで自分が見てきたものと全然違うと感じました。以前、都市部の大きな企業で働いていた時は、利害関係や部署ごとの都合で物事が動いていく場面が多くありました。本当はこうした方がいいと思うことがあっても、立場や数字が優先されて、本質ではない選択になってしまうこともあったんです。 でも西予で出会った方たちは、自分の仕事だけを大きくするというより、地域との関わりや、周りとの循環の中で仕事を続けているように見えました。景観や環境を守りながら産業を続けること、地域の暮らしを維持していくことを、自分ごととして考えている。その姿にすごく驚きました。——仕事の根底にある「思い」の部分に共感したのですね。そうですね。ただ、言葉で「地域のために」と言う人はいます。でも、実際に身銭を切ってでも動いている人には、なかなか出会えませんでした。そういう覚悟を持って働く人たちがいることに、強く惹かれたんです。 それは単に個人の人柄というより、そういう人たちを育てている西予という地域の空気なのかもしれません。“人の良さ”という言葉だけでは収まりきらない、仕事や暮らしへの向き合い方そのものに、ここに来たいと思う入口がありました。「せいよクラス」の移住コーディネーターのみなさんと肌の感覚が合う。移住先選びで大切なこと。 ——その後、暮らす場所として西予を考えた時に、決め手になったものは何でしたか。西予で会った人たちは、最初から「何をしている人ですか」「どんな肩書きですか」と聞くのではなく、まず一人の人として接してくれる感じがありました。しばらく一緒に過ごしたあとで、「そういえば何してる人なん?」と聞かれるくらいの距離感なんです! 私にとっては、それがすごく心地よかった。無理に自分を説明しなくてもいいし、役割や肩書きの前に、人として見てもらえている感じがありました。話していて楽しい、素でいられる。うまく言葉にするのは難しいんですけど、肌の感覚が合うというのが近いかもしれません。——肌の感覚が合う。とても大事なことですね。移住を考える時、家や仕事、買い物の利便性など“暮らしやすさ”も、もちろん大事です。でも、そこで出会う人たちと、どんなふうに関われるのかも同じくらい大切だと思います。私の場合は、西予で出会った人たちとまた会いたい、一緒に何かできたらうれしいと思えたことが、暮らす場所として西予を選ぶ大きな理由になりました。——実際に西予市に暮らしてみて、どんな時に魅力を感じますか。花壇に花があることや、午前と午後でお掃除道具の位置が変わっていること、軒先で作業されている方がいること。人通りが多いわけではないんですけど、朝と昼でまちの気配が少し違うんです。そういうところに、きゅんとします。 道端でおばあちゃんたちが縁石に腰掛けて話している姿を見るのも好きです。派手な出来事ではないけれど、日々の中に小さな幸せが転がっていて、それに「なんかいいな」と思いながら過ごせることが、私にとっての西予の魅力です。花壇に花があることで幸せになれる人には、西予市って合っているかもしれないですね。いつも楽しい津田さん。せいよクラスを明るくしてくれる存在——協力隊の仕事を通して感じていることはありますか。移住コーディネーターになって、人を信じることをすごく試される仕事だなと思いました。来てくれるかどうかわからない人を待つこともありますし、地域の判断を待つこともあります。もちろん、こちらでできることはやります。でも、最後は当事者や地域が決めることも多いので、向こうに責任を投げるのではなく、やれることをやったうえでちゃんと信じて待つ。信じてもらう仕事だと思っていたけれど、自分も信じなきゃいけないんだと感じています。 ——今、特に力を入れていることは何ですか。 西予のことを知ってもらうことです。ただ、情報として知ってもらうというより、西予の人と西予に住んでいない人をつなげて、心の距離が近くなるような機会をつくりたいと思っています。 東京にいた頃、私たちは西予の生産者さんのケチャップを買いに行くことがありました。現地で人と仲良くなって、作っている人の顔を知ったから、東京にいても「またあそこから買おうかな」と思えたんです。体は西予にいなくても、心の距離が近い状態があるのは、すごくいいことだと思います。——自主的に開いている「せいよのがっこう」もそのひとつですか? はい!西予の人と一緒に西予のことを伝えながら、参加する人も地域の人も双方向で楽しめる場にしたい。西予に住むかどうかの一歩手前で、どこにいてもふと西予を思い出してもらえるようなきっかけを、少しずつつくっていきたいです。「せいよのがっこう」では西予市の食材を参加者の皆さんと一緒に食べる編集後記津田さんのお話を聞いて印象に残ったのは、西予市に惹かれた理由が、単に「人が温かい」という言葉だけでは言い表せないものだったことです。ツアーで出会った人たちの仕事への向き合い方。肩書きや経歴ではなく、一人の人として接してくれる距離感。花壇の花や、道端で話す人たちの姿にふと幸せを感じられるまちの空気。津田さんの言葉からは、西予での暮らしを通して見つけた小さな気づきが、いくつも浮かび上がってきました。 移住を考える時、家や仕事、買い物のしやすさはもちろん大切です。でも、それと同じくらい、「どんな人と出会い、どんな関係をつくっていけるのか」も大切なのだと思います。津田さんは、自身の移住経験があるからこそ、移住する人と受け入れる地域のどちらか一方ではなく、双方にとって無理のない形を探そうとしています。その姿勢は、移住コーディネーターという仕事の中にある、見えにくいけれど大切な役割なのだと感じます。 西予に住むかどうかをすぐに決めなくても、まずは人と出会い、まちの空気に触れてみる。日常の中でふと西予を思い出すような関係が生まれることも、移住の一歩手前にある大切な入口なのかもしれません。